セールス・イネーブルメントとは、どういった取り組みなのでしょうか?
海外各社含め、多くの企業がその定義について言及していますが、簡単にまとめると以下のような取り組みのことを言います。
HubSpot社やGARTNER社など、各社のセールス・イネーブルメントの定義については「海外の営業支援企業7社による「セールス・イネーブルメント」の定義を調べてみた」でまとめています。
それぞれの言葉をもう少し深堀りしてみます。
営業チームの成果とは、売上や利益がKPIとして設定されていることが多いかもしれません。
しかし、事業フェーズやチーム・人によっては、売上・利益ではなく「無料プランであってもサービスを利用してくれる顧客数」や「リードタイムの短縮」、「受注率」、「訪問件数」などがKPIとして設定されていることもあります。
そのため、セールス・イネーブルメントの取り組みを始める際には、自社の営業チームに求められているor求めている成果とは何か?を明確にしなくてはいけません。
営業チームに提供するべき資料・情報・ノウハウとは具体的にどういったものがあるかを見ていきます。これらも企業・事業によって、それぞれの必要性や内容が変わってきますので、自社にとって何が効果的なのかを見極める必要があります。
パンフレットやチラシ、営業資料、案件別の提案資料、費用対効果の試算表、業界別・課題別の顧客事例資料、競合比較資料、動画コンテンツ、各種ホワイトペーパー、商品・サービスの補足資料、稟議用資料などがあります。
自社製品の新機能や使い方事例などの自社製品・サービスに関する情報、業界マーケットの大きなトレンドやニュースなどの業界に関する情報、顧客に関する情情、競合に関する情報などがあります。
アポイント獲得のためのトークであったり、「こういう懸念がある顧客に対しては、こういう資料でこういう説明をすると懸念が解消されやすい」であったり、「こういう流れでヒアリングしていくと、顧客の課題を特定しやすい」といった顧客ごと・課題ごとの商談時のノウハウなどがあります。
どういったノウハウがチームの生産性に寄与するのか、そのノウハウをいかに抽出して、チームに共有・展開していくかなどについては、以下の記事も参考になります。
営業の失注理由を分析して受注率をあげる6つのステップ
【無料PDF】【事例】失注理由対策による受注率の向上
セールス・イネーブルメントは、一過性の施策ではなく、継続的に改善を回していく取り組みです。
なぜ、継続的に取り組まなくてはいけないのでしょうか?
その理由の一つとして、営業や顧客をとりまく環境は変化し続けていることがあげられます。その変化に合わせて、有効な資料やノウハウも変化し続けます。
また、事業やチームの状況などによって、取り組むべき課題感は常に変化します。何か施策を実行すると、うまくいった部分とそうでない部分が見えてきます。一つの課題が解決すると、次の課題もまた見えてきます。
そのため、営業チームの成果の最大化のために、継続的に取り組んでいく必要があるのです。
セールス・イネーブルメントとは、営業チームの成果の最大化のために、必要な資料・コンテンツ、情報、ノウハウを、営業チームに提供する継続的な取り組みです。
もう少し具体的に、セールス・イネーブルメントによって得られる効果を見ていきましょう。
セールス・イネーブルメントによって、受注率、営業担当者の売上・利益の向上が見込めます。
Quark社の調査では、セールス・イネーブルメントに取り組んだ企業のうち、営業担当者の売上・利益が向上したと回答した割合が71%、受注率が向上したと回答した割合が54%、商談期間の短縮につながったという回答が21%ありました。
1.受受注率・売上・利益の向上、商談期間の短縮と関連する部分もありますが、営業力の標準化もセールスイネーブルメントによって見込める効果の一つです。
例えば、セールス・イネーブルメントの具体的な施策として、トップパフォーマーのノウハウを可視化して、営業チーム全体に展開していくことがあります。チームの誰かがもっている有効な資料・コンテンツ、情報、ノウハウを、チーム全体に展開することでボトムアップを図ることで、営業力が標準化されていきます。
セールス・イネーブルメントによって、非効率な業務が削減され、結果的に営業活動に集中できる時間が増えるという効果もあります。
例えば、案件ごとに営業担当者は0から提案資料を作っている営業チームの場合、提案資料の雛形のようなものをチーム全体で共有したり、他の営業担当者が過去に作った提案資料を共有しあう仕組みを作ることで、提案資料を作成する時間を削減することができます。
また、ノウハウを共有し合うことで、過去に営業チームの誰か一人が試行錯誤したプロセスを、他の営業担当者は減る必要がなくなり、さらにそのノウハウの上に新しい試行錯誤が展開されていくようになります。
Accent Technologies社の調査では、セールスイネーブルメントによって、営業担当者が顧客に提供する情報やコンテンツを探す際に、資料が散らばっていたり、最新のバージョンがどこにあるのか分からないために生じていた無駄な時間が26%削減され、本来の営業活動に集中できる時間を週4時間増加したそうです。
セールスイネーブルメントによって、営業に必要な資料・コンテンツ、情報、ノウハウが整理され、いつでも誰でもカンタンに必要なものにアクセスできる環境を構築することで、新人の育成スピードが向上し、マネージャーの教育・指導の標準化やそれらにかかる時間が削減されます。
新人は、以下のような効果を感じることができます。
・必要な資料・コンテンツ、情報、ノウハウの全体像がわかりやすい
・意欲があればそれらを自分でとりにいける
・必要なものだけ必要に応じてすぐに手に入れることができる
マネージャーは、以下のような効果を感じることができます。
・教育・指導に必要なコンテンツが整理されているので指導しやすい
・今までは口頭で個別に伝えていたことが、コンテンツを通してチームに展開されるため、同じ指導を何度も行う必要がない
CardPicksのようなナレッジシェアツールを使ってセールス・イネーブルメントを行うことで、どの資料・コンテンツ、情報、ノウハウが最も使われているのか?逆に使われていないのか?どれが有効なのか?が可視化することが可能になります。
それにより、データ・数値をベースにした施策の立案につながったり、今まで個々人の感覚で「良い・悪い」などを判断していたものが定量的・定性的に判断できるようになります。
セールス・イネーブルメントは、ある意味、チームの誰かのもっている資料・コンテンツ、情報、ノウハウを、チーム前提に展開する取り組みです。
セールス・イネーブルメントによって、ナレッジ共有する文化が醸成されたり、それによって社員同士・チーム同士のコミュニケーションが活性化したりといった効果も見込めます。
セールス・イネーブルメントという言葉はもともとは海外で生まれてトレンドになっている言葉ですが、最近は日本でも様々なシーンで聞かれることが多くなってきました。
なぜ、今、セールス・イネーブルメントが注目されているのでしょうか?
その背景には、BtoB営業を取り巻く大きな環境の変化があります。こうした変化も、各社がセールス・イネーブルメントに取り組むきっかけになっているようです。
以下の1と2の理由などにより、BtoB営業の難易度は年々あがっています。1と2のような状況においては、個人ごとに独立して営業活動を行うのではなく、セールスイネーブルメントのような取り組みによって、チームとしての営業活動を行なうことが必要になってきています。
インターネットの浸透によって、BtoBの購買であっても、顧客は自分で製品・サービスを調べ、比較・検討までするようになっています。
Google社の有名な調査で、「顧客は営業担当者と接触する前に購買の意思決定プロセスの約57%を追えている」というものがあります。57%とは、約2/3に迫る数字です。つまり、営業担当者が顧客の購買に与えられる影響範囲が小さくなり、競合との比較にさらされやすくなっています。
また、逆にいうと、営業担当者と接触する以前のマーケティングチームの影響範囲が大きくなっているということでもあります。そのため、マーケティングチームと営業チームの連携も重要になってきます。
BtoB営業において、購買の意思決定に関わる人数は、年々増えており、2014年は平均5.4人だったのが、2016年には平均6.8人になっています。例えば、システム導入であれば、社長・決裁者だけではなく、現場の担当者や管理者・マネージャー、システム部門など様々な立場の人の検討がされます。営業担当者は、こうした様々な立場の人を説得しなくてはいけなくなっています。
また、BtoBの購買プロセスは、企業や案件によってかなり可変的です。こちらの図は、営業プロセスと顧客の購買プロセスを図式化したものです。
左から、課題を特定し、ソリューションを探し、要件を整理、サプライヤーを決定するというのが一般的な購買プロセスです。
この流れの中で、黒い矢印で描かれている部分は、顧客の企業内で行われる様々な意思決定や行動のプロセスを表現しています。ある意味、営業担当者からするとブラックボックスになっている顧客の購買プロセスともいえます。
企業や案件によって、こうしたプロセスの進み方が可変的すぎるので、営業担当者からするとヨミにくく、企業や案件によって必要な資料・コンテンツ、情報、ノウハウも違うので、その対応が営業担当者には求められます。
多くの組織で営業人材の不足が課題になっています。一方、働き方改革をはじめ、残業時間の削減や生産性向上のための取り組みの必要性が増しています。
従来の日本の営業担当者の多くは、顧客獲得とか営業やそ後の顧客フォローまで、一気通貫で担当していました。
しかし、昨今は、役割ごとの分業制を取り入れる企業も多くなってきました。例えば、マーケティングチームと営業チームという分業だけでなく、営業チームの中でさらに、インサイドセールスとフィールドセールス、さらに製品・サービス導入後のカスタマーサクセス部門などの分業が進んでいます。
分業制が進むほど、例えば、マーケティングチームで作ったホワイトペーパーなどのコンテンツが、営業チームで活用できたりするシーンも増えてきます。そうした意味で、営業が成果を出すために、各部門との連携の必要性が増しており、部門を超えたセールスイネーブルメントの取り組みが重要性を増してきています。
※セールス・イネーブルメントのテーマの一つに「部門の連携」がありますが、これについてはPart2以降で整理します。
次回は、Part2として以下の内容についてまとめていきます。
04.セールス・イネーブルメントの具体的なステップ
05.必要な資料・コンテンツ、情報、ノウハウの可視化・整理
06.必要な資料・コンテンツ、情報、ノウハウの収集・作成
07.必要な資料・コンテンツ、情報、ノウハウの蓄積・運用
08.営業担当者への落とし込み